妊娠中に歯のレントゲンを撮っても大丈夫ですか
「妊娠中なのですが、レントゲンは撮っても大丈夫でしょうか」。よくいただくご質問です。
結論から申し上げます。歯科のレントゲンは、妊娠中でも撮れます。 理由は、くらべる桁が違うからです。
数字でお答えします
国際放射線防護委員会(ICRP)は、おなかの赤ちゃんに影響が出るかもしれない量として、約100ミリシーベルトという数字を挙げています。
いっぽう歯科のレントゲンは、
- お口の中に入れる小さなレントゲン 1枚で 約0.01ミリシーベルト
- 顎全体を写すパノラマレントゲン 1枚で 約0.03ミリシーベルト
しかも、この数字は撮影する場所(お口)での量です。おなかはそこから離れています。加えて、防護エプロンを使います。
比べる相手が、けた違いに大きいのです。
くわしい数字は小児歯科とレントゲンのページにまとめてあります。
それでも気になるときは
「数字は分かったけれど、やっぱり気になる」。その気持ちは自然なものです。
急がない撮影であれば、時期をずらすこともできます。 妊娠初期は、おなかの赤ちゃんがもっとも育っている時期です。待てるものなら待つ、という判断はあってよいと思います。
逆に、痛みや腫れがあるときは、待つほうがつらくなることがあります。 診断がつかないまま様子を見ると、処置が遅れて、かえって大がかりになることもあります。
どちらがよいかは、お口の状態によります。気になることは、そのまま言っていただいて大丈夫です。 撮る・撮らないを決めるのは、ご相談のうえです。
妊娠中の歯ぐきについて
妊娠中は、ホルモンの変化で歯ぐきが腫れやすくなります。つわりで歯みがきがつらくなる方も多く、お口の状態が悪くなりやすい時期です。
歯周病と早産の関係については、よく「7.5倍」という数字が紹介されます。 これは1996年にアメリカで報告された研究(Offenbacher ら)で、重い歯周病のある妊婦さんで、早産・低出生体重児のリスクが高かったというものです。
ただし、ここから先を正直にお伝えします。
その後、「では妊娠中に歯周病を治療すれば早産を防げるのか」を調べる比較試験がいくつも行われました。結果として、治療によって早産が減るという結論は得られていません。 複数の試験をまとめた解析でも、はっきりした差は出ていません。
ですから、「歯周病を治せば早産を防げます」とは申し上げません。 そう言い切れるだけの根拠が、いまのところないからです。
それでも妊娠中に歯科へ来ていただきたい理由は、別にあります。お母さんご自身の歯を守るためです。この時期は歯ぐきが悪くなりやすく、産後は赤ちゃんのお世話でご自分のことが後回しになります。産む前に一度、お口を整えておくことには意味があります。
「赤ちゃんにうつる」について
以前は「お母さんの歯周病菌が胎盤を通って赤ちゃんにうつる」と書かれることがありました。この書き方は、いまの知見からは行き過ぎです。 そう言い切れる段階にはありません。
むし歯の菌については、生まれたばかりの赤ちゃんのお口にはいないこと、身近な大人から移っていくことが分かっています。ただしこれは、スプーンを分けたから防げる、という単純な話でもありません。くわしくはままぱぱタイムのページをご覧ください。
保護者の方の診療も行っています
当院は小児歯科ですが、平日の決まった時間に、保護者の方の診療を行っています。 お子さまと一緒にお越しいただけますし、歯が生える前の赤ちゃんをお連れでも大丈夫です。
ご予約はネットとLINEから24時間お取りいただけます。
このコラムで参考にした資料
- 胎児への影響が検討される線量の目安(約100ミリシーベルト)。国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告にもとづく一般的な説明
- 歯科X線撮影の線量(口内法・パノラマ)。Radiation doses in dental radiology(国際原子力機関 IAEA)
- 歯周病と早産・低出生体重児の関連を最初に報告した研究。Periodontal Infection as a Possible Risk Factor for Preterm Low Birth Weight(Offenbacher S ほか, Journal of Periodontology, 1996年)
- その後の比較試験では、妊娠中の歯周治療による早産の減少は確認されていません(複数の無作為化比較試験とそのメタ解析)