先に、いちばん多いご質問にお答えします
- 赤ちゃんは切るの? … 哺乳がうまくいかず、授乳の支援でも良くならないときに限って検討する、というのが今の学会の流れです。当院では新生児の切開は行っていません。
- 小学生は? … 舌を持ち上げても上あごの真ん中くらいまでしか上がらないときなどは、当院で切る場合があります。
- 切ったら終わり? … いいえ。あいうべ体操などのトレーニングが必要です。
- まず何を? … 舌の動き・発音・食べ方を見て、舌の力(舌圧)も測ります。
舌小帯短縮症とは? 舌の裏のすじが短く、舌が動きにくい状態
舌を持ち上げると、舌の裏の真ん中に、下あごとつながるすじ(舌小帯)が見えます。このすじが短かったり、舌の先のほうまでついていたりして、舌の動きがさまたげられている状態を「舌小帯短縮症」といいます。
ただし、すじが短く見えても、困りごとがなければ治療はいりません。大切なのは見た目ではなく、「飲む・食べる・話す」に支障があるかどうかです。
- ① 赤ちゃん切るかどうかは、学会のあいだでも意見が分かれています。当院では新生児の切開は行っていません。
- ② 小学生舌が上あごの真ん中くらいまでしか上がらないときなどは、当院で切る場合があります。
- ③ 切ったあとあいうべ体操などのトレーニングが欠かせません。
こんな様子はありませんか?
- 舌を前に出すと、舌の先がハート形にくびれる
- 大きく口を開けて舌を持ち上げても、上あごに届かない
- 舌を前に出しても、下の唇をこえて出ない
- ラ行・サ行・タ行などが言いにくい、舌足らずな話し方
- 食べ物を舌でうまく動かせず、食べこぼしや丸のみが多い
- 舌が下がって、お口がぽかんと開いている
舌の動きと舌の力は、口腔機能発達不全症の検査(舌圧測定器)でも確かめられます。
赤ちゃんの舌小帯は切るべき? |国内外の学会の考え方
赤ちゃんの舌小帯を切るかどうかは、今も専門家のあいだで議論が続いているテーマです。主な考え方をご紹介します。
- 日本小児科学会(2001年)委員会の調査報告で、「舌小帯短縮症のほとんどは切開する必要がない」と結論しました1)。この報告のあと、国内では切開する小児科医がほとんどいなくなったとされています2)。
- 海外の流れその後、WHO(2009年)や米国小児科学会(2017年)が、哺乳障害のある赤ちゃんでは切開で改善しうる、という考え方を示したと報じられています3)。
- 米国小児科学会の臨床報告(2024年)舌小帯短縮症の診断と切開が1997〜2012年に約10倍に増えたことに注意をうながし、授乳の悩みの多くは舌小帯が原因ではないとしています。まず授乳の様子をよく見て授乳の支援を行い、それでも良くならないときに、慣れた専門家による切開は妥当な選択肢、としています4)。
- 切開の効果についての研究お母さんの乳首の痛みは短期間やわらぐという報告が多い一方、赤ちゃんの哺乳への効果は研究によって結果が一定していません4)5)。国内では、哺乳障害のある新生児・乳児343例で切開により哺乳障害が高い割合で改善したという小児外科の報告もあります6)。
まとめると、今の流れは「見た目だけで切らない。哺乳がうまくいかず、授乳の支援でも良くならないときに限って検討する」です。
当院では、新生児・乳児の舌小帯の切開は行っていません。授乳の悩みは、まず産院の助産師やかかりつけの小児科にご相談ください。切開が必要かどうかの判断と処置は、新生児の切開を行っている医療機関(小児外科など)が担当します。お口の様子が気になるときは、当院でもご相談をお受けします。
幼児期は、まず様子を見て、舌のトレーニングを
幼児期は、舌や口のまわりの筋肉が育ち、すじもある程度のびていく時期です。発音もまだ育っている途中なので、すぐに切ることはしません。
舌の動きや発音、食べ方の様子を見ながら、必要に応じて舌の体操を始めます。舌の力が弱いときは、口腔機能発達不全症として、舌圧を測りながらトレーニングを進めます。
小学生で、舌小帯を切る場合があります
当院では、小学生のお子様で、舌小帯の異常がはっきりしている場合に、舌小帯を切る処置(舌小帯の手術)を行うことがあります。
目安:お口を大きく開けて舌を持ち上げても、上あごの真ん中くらいまでしか上がらないとき。
そのうえで、発音・舌のくせ(舌癖)・食べ方・歯並びへの影響などを合わせて、切ったほうがよいかを判断します。処置は局所麻酔をして行います。費用は保険の対象です。
切ったあとは、トレーニングが必要です
すじを切っただけでは、舌の動きはよくなりません。これまで動かせなかった舌を動かし方から覚え直す必要があります。また、傷が治るときにまたくっついて後戻りしないためにも、トレーニングが欠かせません7)。
- あいうべ体操「あー」「いー」「うー」「べー」と、お口と舌を大きく動かします。
- 舌を持ち上げる練習舌の先を上あごの正しい位置(スポット)につけます。
- 舌の力を測る舌圧測定器で、トレーニングの前と後の力を数値で確かめます。
あー、いー、うー、べー! 毎日つづけると、舌がよく動くようになるニャ。
よくあるご質問
見た目だけで切る必要はありません。今の学会の流れは、哺乳がうまくいかず、授乳の支援でも良くならないときに限って切開を検討する、というものです。まずは産院の助産師やかかりつけの小児科にご相談ください。当院では新生児・乳児の切開は行っていません。
舌を前に出したとき先がハート形にくびれるのは、舌小帯が短いサインのひとつです。ただし、飲む・食べる・話すに困りごとがなければ、治療はいりません。気になるときは、舌の動きを確かめますのでご相談ください。
当院では、小学生で舌小帯の異常がはっきりしているときに切る場合があります。目安は、お口を大きく開けて舌を持ち上げても、上あごの真ん中くらいまでしか上がらないときです。発音や舌のくせ、食べ方も合わせて判断します。費用は保険の対象です。
切っただけでは、舌の動きはよくなりません。あいうべ体操などで舌の動かし方を覚え直すトレーニングが必要です。後戻りを防ぐためにも、切ったあとのトレーニングが欠かせません。
発音は幼児期にまだ育っている途中なので、すぐに切ることはしません。気になるときはいつでもご相談ください。舌の動きや力を確かめ、必要に応じてトレーニングから始めます。
参考にした文献・報告
- 日本小児科学会 倫理委員会 舌小帯短縮症手術調査委員会「舌小帯短縮症に対する手術的治療に関する現状調査とその結果」2001年(日本小児科学会)
- 日本小児科学会雑誌 118巻3号 要旨(舌小帯短縮症の切開についての系統的レビュー)(日本小児科学会)
- 時事メディカル「舌小帯短縮症、正しい知識で早期治療」(時事通信)
- American Academy of Pediatrics. Identification and Management of Ankyloglossia and Its Effect on Breastfeeding in Infants: Clinical Report. Pediatrics. 2024;154(2):e2024067605(米国小児科学会)
- Treatment of Ankyloglossia and Breastfeeding Outcomes: A Systematic Review. Pediatrics. 2015;135(6):e1458(米国小児科学会)
- 日本小児外科学会雑誌 56巻7号 1074頁(2020年。哺乳障害を伴う舌小帯・上唇小帯短縮症に対する切開の前方視的検討)(J-STAGE)
- 小児歯科学雑誌 59巻2号 95頁(2021年。舌小帯切除後の口腔筋機能療法についての症例報告)(J-STAGE)